朝鮮学校その他の外国人学校に正当な地位を
在日本朝鮮人人権協会
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1.はじめに
1945年、終戦直後の日本には、朝鮮植民地支配を起因とし、強制連行などで日本へ連れてこられたり、生活のために日本へ渡ってきた朝鮮人が240万人ほどいた。解放を迎え、大多数の人々は朝鮮に帰国したものの、朝鮮での生活基盤を失ってしまった人たちや、朝鮮の情勢に不安を感じた人たち約60万人は日本にとどまらざるを得ない状況にあった。そのようにして日本に残ることとなった朝鮮人は、植民地時代、日本の皇民化政策によって奪われた母国語と民族の文化を取り戻し、子どもたちに継承したいという思いから、解放後すぐに朝鮮語講習所をつくりはじめた。小さな講習所は次第に組織的かつ体系的な朝鮮学校事業へと発展していき、朝鮮学校は日本各地につくられていった。
日本政府は朝鮮学校閉鎖令を度々下し、朝鮮学校を弾圧したが、それでも守られた朝鮮学校に対し、1965年の韓日条約締結後、同年12月に各都道府県教育委員会と知事宛に二つの文部事務次官通達を送り、その処遇を明らかにした。通達の一つ、「法的地位協定における教育関係事項の実施について」は、朝鮮人の日本人学校就学を積極的に奨励したうえで、朝鮮人を日本人と同様に取り扱い、「教育課程の編成実施について特別の取り扱いをすべきではない」としながら、日本学校内における民族学級や朝鮮語教育の実施などを否定するものであった。もう一つの通達、「朝鮮人のみを収容する施設の取り扱いについて」によって、民族学校は「我が国の社会にとって各種学校の地位を与える積極的意義を有するものとは認められない」ので各種学校としても認可すべきではないとされた。民族教育を否定するこのような弾圧政策に多くの在日朝鮮人と少なくない日本人が反対し、民族学校を取り締まろうとする政府の思惑とは裏腹に、朝鮮学校は次々と各種学校の認可をうけ、現在に至っている。
2.朝鮮学校をはじめとする外国人学校に対する差別的処遇について
日本の学校教育法はその第一条で「学校とは、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園とする。」と定めているが、ここで定められている一般の学校を総じて「一条校」としています。現行の教育法では「一条校」は文科省の検定教科書を使用することが義務付けられています。そのため一条校として認定されると、日本の教科書を使い、日本語で授業を進めることが義務付けられ、朝鮮語や朝鮮の歴史、地理を学ぶといった民族教育は付属的に行なう程度に制限されてしまう。一方、朝鮮学校など、独自の文化や歴史を教え、独自の言語を使って授業をする民族学校やインターナショナルスクールは「一条校」ではなく、教育法第83条に定める「各種学校」として扱われている。各種学校とは、一般的に単科で技能的な教育を施す施設を指し、例えばそろばん教室や料理教室などがこれに該当する。朝鮮学校が正規の学校ではなく、各種学校の地位にあることで、朝鮮学校に通う子どもたちは様々な差別に直面している。
日本の学校の前にある道路には、学校に通う子どもたちの安全を考え、自動車の速度制限を課す「スクールゾーン」が設置されている。しかし朝鮮学校などの民族学校は各種学校であるとして、スクールゾーン設置対象からはずされている。子どもの生命と安全を考えた場合、このような差別は直ちに是正されるべきである。
朝鮮学校は振興助成において、各種学校という位置付けのため、多大な不利益を被っている。在日コリアンは日本人と同じように納税の義務を果たしているにもかかわらず、国庫から朝鮮学校への補助は一切ない。地方
自治体の多くは独自の判断で助成金を出しているが、日本の公私立学校と比べ格段の差がある。日本の公立学校は小、中、高それぞれ1人当たり年間80万円〜90万円、私立学校は地方自治体によっての助成の名目も金額も若干の差異があるが、小、中、高それぞれ1人当たり年間25万〜30万円前後が支給されている。朝鮮学校については、各都道府県と市区町村からそれぞれ支給されている助成金を合計しても、小、中、高全国平均で1人当たり年間8万円前後しか支給されておらず、日本の公立学校のわずか10分の1にすぎない。
そのため、保護者や支持者からの寄付金が学校を運営する上で貴重な財源となっているが、日本の公立校への一般の寄付が損金・控除対象として納税時考慮され、私立学校も「特定公益増進法人」として一定の優遇がなされる一方で、朝鮮学校にはなんの措置もとられてない。また、2003年度よりインターナショナルスクールも一般の私立学校並みに「特定公益増進法人」に追加され、寄付をした個人や企業が税制上の優遇措置を受けられるようになったが、この改定からも朝鮮学校をはじめとする民族学校は排除された。
朝鮮高校卒業生は、進学や資格取得の面で様々な困難がある。文部科学省は、朝鮮高校は一条校ではないため、卒業しても「高卒」者としての地位を認められず、朝高卒業生の大学受験資格を認めることは出来ないとしてきた。多くの私立大学、公立大学は大学の独自の判断で朝高卒業者の大学受験資格を認めているが、国立大学はこれまで、文科省の決定に従い受験を認めてこなかった。ゆえに朝高卒業生が国立大学を受験するには、大学入学資格検定(大検)を取得するか、通信制や定時制の日本の高校を卒業し、それらの高卒者として大学受験資格を得るという回り道を強いられてきた。文科省は2003年3月、アジア系民族学校出身者は排除し、インターナショナルスクール出身者にだけ大学受験資格を認める措置を講じたが、これに対し、アジアに対する差別意識の表れであり、あからさまな民族差別であるとの批判の声が、民族学校関係者のみならず、日本の市民からも沸き起こった。さらにその見直しを迫った一万三千通にも及んだパブリックコメントにも押され、文科省は一度出した方針の再検討を余儀なくされた。しかし、その結果9月に設けられた大学入学資格の基準において、外国人学校内に新たな線引きをし、朝鮮高級学校や、ブラジル人学校などの卒業生の受験については各大学の個別審査に委ねる、としたのである。文科省では「朝鮮学校を認めていないという話ではない。学校で判断するのではなく、個人で判断してほしい」としていますが、このような手の込んだ基準の設置は、朝鮮学校を正式認可からどうにか排除したいという意図が見え隠れしていると言わざるを得ない。この決定により、一番被害を受けたのは何の罪もない学生たちである。申請されるごとに学生を個別審査するということは、今年度朝鮮学校出身者の受験を認可した大学が、来年以降もそうするとの保証はないということである。審査の結果、再び大検を課してくる大学も出てくる可能性が残されている。来年以降の受験を控えた朝鮮学校生徒たちの不安感はいまだ消えていない。
このような朝鮮学校に対する日本政府による制度的な差別とその是正を怠る態度は、日本社会にも忠実に反映され、朝鮮学校児生徒への暴言、暴行事件という形で表れている。特にこの10数年間、朝鮮学校の制服であり、朝鮮の民族衣装でもあるチマ・チョゴリを着た生徒をターゲットとした暴行事件が白昼多発するという事態が、ことあるごとに繰り返されている。最近では2002年9月17日の朝日会談以降、マスコミによる朝鮮問題に対する偏狭な報道が続けられ、学生への嫌がらせや「チマ・チョゴリを着た女子生徒を拉致し、レイプする」といった脅迫電話やメールなどが後を絶たない。学校の教職員や保護者は、集団登下校や送り迎え、チマ・チョゴリにかわる第二制服の着用を奨励するなどの措置をとったが、嫌がらせは止むどころか蔓延し、2003年1月末にはJR埼京線内で通学中の女子生徒のチマ・チョゴリが切られる事件が発生した。嫌がらせ事件が続くなか、日本の首都の知事である石原慎太郎は、10月28日、日本による朝鮮植民支配について「彼ら(朝鮮人)の総意で日本を選んだ」などと発言した。(詳細については当協会が10月31日に送付した通報・添付別紙1を参照のこと)このような誤った歴史認識に基づいた都知事の発言は、在日コリアンの子どもたちへの偏見と差別を助長し、暴言、暴行を誘発する許しがたいものである。
3.差別の不当性
日本政府による朝鮮学校に対する数々の差別的処遇につき、朝鮮学校関係者が行なった日本弁護士連合会(以下日弁連)への人権救済申立てに応え、日弁連は1997年12月、調査報告書をまとめ、1998年2月20日には内閣総理大臣と文部大臣に「勧告書」、衆参両院議長と国公私立大学協会会長に「要望書」を提出した。日弁連はこれらで、「朝鮮各級学校のみならず、いわゆるインターナショナルスクールなど日本国に在住する外国人の自国語ないし自己の国及び民族の文化を保持する教育に関して重大な人権侵害があると同時に、子ど
もの権利条約など関係条約違反の状態が継続していると判断」したうえで、日本政府に対し、@朝鮮学校卒業生の各種資格試験の受験資格を認めること、A朝鮮学校に対し少なくとも私立学校振興助成法によるのと同等以上の助成金が交付されるよう処置をとること、B1965年通達の撤回とその被害を回復する適当な処置を取ることを勧告したのである。
また近年、国連の人権条約審議委員会において在日コリアンに対する嫌がらせ問題、朝鮮学校への差別的処遇がことごとく問題視されている。1998年5月の子どもの権利委員会第1回日本報告書審議においては、朝鮮学校生徒の高等教育機関へのアクセスに関する不平等、また、「チマ・チョゴリ」事件が問題視され、次のような懸念事項と勧告を含む総括所見が採択された。
子どもの権利条約委員会の最終見解 1998年6月5日
13.委員会は、差別の禁止(第2条)、児童の最善の利益(第3条)及び児童の意見の尊重(第12条)の一般原則が、とりわけアイヌの人々及び韓国・朝鮮人のような国民的、種族的少数者に属する児童、障害児、施設内の又は自由を奪われた児童及び嫡出でない子のように、特に弱者の範疇に属する児童の関連において、児童に関する立法政策及びプログラムに十分に取り入れられていないことを懸念する。委員会は、朝鮮出身の児童の高等教育施設への不平等なアクセス、及び、児童一般が、社会の全ての部分、特に学校制度において、参加する権利(第12条)を行使する際に経験する困難について特に懸念する。
35.委員会は、条約の一般原則、特に差別の禁止(第2条)、児童の最善の利益(第3条)及び児童の意見の尊重(第12条)の一般原則が、単に政策の議論及び意思決定の指針となるのみでなく、児童に影響を与えるいかなる法改正、司法的・行政的決定においてもまた、全ての事業及びプログラムの発展及び実施においても、適切に反映されることを確保するために一層の努力が払われなければならないとの見解である。特に、嫡出でない子に対して存在する差別を是正するために立法措置が導入されるべきである。委員会は、また、朝鮮及びアイヌの児童を含む少数者の児童の差別的取扱いが、何時、何処で起ころうと、十分に調査され排除されるように勧告する。更に、委員会は、男児及び女児の婚姻最低年齢を同一にするよう勧告する。
この総括所見を受け、当協会は日本の関係省庁に対し、朝鮮学校生徒への暴言、暴行を含む嫌がらせの再発防止と予防、加害者の処罰を訴え、朝鮮学校とその生徒に対する差別的処遇の是正を求めてきた。(昨年一年の活動に関しては別紙2を参照のこと) しかし、委員会の求める差別の解消は実行されることなく、当協会は日本が批准した主要人権諸条約委員会に対し同様の問題提起を継続し、2001年の社会権規約委員会では、朝鮮学校を正式に認可し、補助金その他の財政援助を得られるようにすること、また、朝鮮学校の卒業資格を大学入学試験の受験資格として承認することなどが勧告されるに至った。
自らの民族の言語、歴史、文化を継承するための教育を受ける権利は、決して侵害されてはならないというのが国際社会における共通の認識となっていく中で、植民地統治時代朝鮮語を奪われた朝鮮人が、いまもなお差別を受け続けていることが懸念され、その是正を強く勧告されたのである。
4.要請
以上のことを鑑み、当協会は、日本政府による朝鮮学校の児童、生徒に対する処遇が、差別の禁止を謳った子どもの権利条約第2条に反すると判断し、子どもの権利条約委員会に対し次のことを要請する。
1. 朝鮮学校をはじめとする外国人学校を学校教育法に定めた「一条校」に準ずる正規の学校として認め、大学受験資格、税制上の優遇措置、助成金などで外国人学校が被る差別を即時撤廃すること
2. 在日コリアンをはじめとする外国籍の子どもに対する差別や嫌がらせをなくすための実効性ある再発防止策を講じるとともに、人種差別行為を処罰する法を整備すること